「アメージング・グレース」に想う


森 島 牧 人  牧師

牧師写真

 アメリカで奴隷であった黒人たちにより全米に広げられたこの賛美歌は、彼らの心の支え、またはある時は抵抗の歌であり、彼らにとってはまさに第二の国歌ともいうべきものでした。しかし今や、これは全世界でもっとも愛される魂の調べでもあります。ロックンロールの王様E・プレスリーもこの曲を歌い、全米で最も権威のあるグラミー賞を受賞しています。彼の活躍により、この調べは白人と黒人を結ぶ象徴ともなりました。しかし約200年前にこの歌詞を書いた人物が、実はもと奴隷船の船長であったと知ったら、この讃美歌を全米に広げた黒人たちはおろか、多くの人々はさぞかし驚くことでしょう。
 彼の名前は、ジョン・ニュートン。航海の途中で嵐に遭い難破しかけた彼は、必死に神に祈りました。一命を取り留めた時、彼は神に感謝すると共に過去の自分を悔い改め、その後なんと牧師になったのです。「なんと大きな恵だろう、こんな卑劣漢(wretch)のわたしをも救って下さった」。その時の彼の想いがこの詩には込められています。この歌詞は、1779年イギリスで出版されたオールニー賛美歌集に、はじめて収録されています。
 ところで、なぜこの賛美を奴隷であった黒人たちが愛したのでしょう。彼らも卑劣漢だったのでしょうか。黒人奴隷は罪深い人だったのでしょうか。違います。先ほどの歌詞に出てくる”wretch”という言葉には、「卑劣漢、罪人」のほかにもう一つの意味がありました。それは「哀れな人」という意味です。つまり彼らは、自分たちの境遇から、その詩の中にある”wretch”に異なるメッセージを読み取ったのです。「こんな哀れな自分でも救われる」と歌うことにより、この賛美を自分たちの魂の歌にしていったのです。
聖書 詩編102:1〜3
「主よ、わたしの祈をお聞きください。わたしの叫びをみ前に至らせてください。わたしの悩みの日にみ顔を隠すことなく、あなたの耳をわたしに傾け、わが呼ばわる日に、すみやかにお答えください。」

おちぼ106号より

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